東京芸術劇場で「南へ」を観た

作・演出=野田秀樹、出演は妻夫木聡蒼井優渡辺いっけい・高田聖子・銀粉蝶山崎清介・藤木孝野田秀樹ほか。

野田作品は「表に出ろいっ!」を見損ねたので「ザ・キャラクター」以来。
ついでに妻夫木くんは「キル」、蒼井優ちゃんは「楽屋」以来それぞれ二度目の生芝居観賞となった。

感想を書くのが難しい…。
野田作品は非常に個性的で笑いの要素もふんだんに織り交ぜながら、相当に難解な主題・副題を多く含み、哲学的であり神話的でもあるから。

今回の「南へ」は途中までは比較的解り易い気がしていたのだが、後半にぽんと投げ込まれたキーワードで混乱してしまった。
(以下ネタばれあります、これからご覧になる方はご注意をば☆)

嘘つき女と自分は誰なのかわからない男、火山観測所の職員たち、火山の麓で旅館を営む三つ子の姉妹、天皇家の依り代、役行者
噴火しそうな火の山を前にして、現在と300年前を行き来しながら物語が進む。
強烈に印象的なのは若い二人(ブッキー&優ちゃん)を完全に食っている銀粉蝶さんの「帝のお毒見」・藤木孝さんの「妃のお毒見」の迫力と、野田さん演じる「VIP」「役行者」の怪しさだった。
彼らが中心となって「お墨付き」「天皇を騙る詐欺」「歴史」にまつわる毒々しさを吐き出し、戦争へと向かった過去を暗い絵巻物のように表す。
高田さんやいっけいさんも安定感抜群なので、お芝居全体はとても面白いんだが途中なんだか間延びしているような気がしたのは何故だろう。
テーマが多すぎたのか、若いお二人が発展途上だからか(決して下手ではない)、似た動き・似た言葉が繰り返されたためか(強調したかったのだろうとは思うけれども)。

それはさておき。

曖昧なものを曖昧なままに放置し見たいものだけを見てきた日本人。
メディアに振り回され右往左往し芯がふにゃふにゃになっている日本人。
いい加減に目を覚ませ、もう期限が迫っているぞ、自分の頭で考えろ!

そんな野田さんの声が聴こえてくるような芝居だった。

最後の方で混乱したのは、嘘つき女の「きたからきた」という台詞。
「北から来た」
それは即ち北朝鮮だと理解したが、何故ここでその要素が投入されたのかわからず混沌となったのだ。

南へ、というタイトルと対になる、北から。
ここをきちんと押さえて見るとまた違う世界が広がるのかもしれない。

字足らず(否、脳足らず)。