ブラック・スワンを観た

観たい映画は数あれど、実際に映画館まで足を運んで観る映画は限られている。
ブラック・スワン」は上映される前からなぜか心惹かれ、スマステで吾郎ちゃんが絶賛しているのをみてますます観たくなり、しかし巷では「相当怖い」「ほとんどホラー」「いやサスペンススリラー」などと囁かれているのを知って腰が引けていた。

それでもやはり、スクリーンで観なくては後悔する気がしたので恐る恐る出掛けてみた。
(この辺の感覚は「十三人の刺客」を観る前と似ている。)

結果的に、観て良かったと思う。
(以下ネタばれしまくってます、これから観る方はご注意を!)


まず第一に作品全体の吸引力の強さが半端ではない。
説明台詞を多用せず画面と音響の迫力で圧倒し、どこまでが現実でどこからが深層心理なのか判別できなくさせる展開で主人公に感情移入させ、恐怖・抑圧・喜びや興奮をも観ている側に生々しく体感させる手法が素晴らしい。

時折、正視に耐えない場面もあったが(個人的に「痛い」映像に弱いので…特に身体の先端とか…無理…)、後味は決して悪くない映画だった。
かなり壮絶な内容だしハッピーエンドとは到底言えないのに、妙な達成感がこちらにも伝染して「でもこれは一種のハッピーエンドかもしれない」と思ってしまう。
ラスト寸前の母親のアップが肝だな、私にとっては。

単なるバレエ映画ではなく、ホラーでもサスペンスでもなく、母と娘の抱えるありとあらゆる感情を下敷きにして作られた心理劇。
その割にはさらっとしているぐらいかもしれない(どんだけドロドロを想像しておったんだ、私は…)。
ただ、この映画は凄く疲れる。
数時間にわたって集中力を駆使するはめになるから。

ぐったりしながら映画館を出ようとしていたら、中年マダ〜ム二人連れが大声で会話しているのが耳に入った。

「なんだか思ってたのと違ったわー」
「あらそう、どんなだと思ってたの」
「シューズに画鋲とか入れる嫌がらせにも負けず主役を勝ち取るのかと」
「えーーー」

これには私も「ええー!」とツッコミを入れたかった…どんな少女漫画だよ、それ。

「それでねぇ、よくわからないとこがいっぱいあるんだけど」
「どこー?」
「あのライバルは刺されてなかったのぉ?」
「そうよ、あれはぜんぶ妄想なのよ、主人公の!」

妄想て。
まぁそりゃそうともいえるけど。

「ああそうなの?でも自分は刺したの?それで死ぬの?」
「そうでしょ!」

ううむ。
余韻とか余白とか余地とかのまったくないマダ〜ムたちめ。

この場合は死ぬの生きるの、刺したの刺さなかったのが問題ではなくて「完璧だったかどうか」が主眼だと思うんだが…まぁええか。
感じ方は自由。

ちょっと傍迷惑な大声での会話だったけど、なんだか面白くなってしまったおかげで疲労感が少し取れたかも。

自分の中では「記憶に残る名作」とはちょっと違うけど、「見応えのある強烈な一本」になった。