歌舞伎デビュー その1(ネタばれあります)

桜も満開、麗らかな春の日に歌舞伎デビューを果たした。
東銀座に鎮座するあの歌舞伎座の佇まいたるや、重厚かつ絢爛にして伝統美に縁取られ威風堂々。
それだけでもいいもの見せてもらったぁ!とかなり満足してしまう。

しかも初歌舞伎が18代勘三郎襲名披露とはこの上なき幸運。
私が観た夜の部のプログラムは「毛抜」「口上」「籠釣瓶花街酔醒」、いずれも豪華な歌舞伎役者が揃い踏みであった…(溜息)。

歌舞伎ド素人にとっても大変楽しく面白く、もしも私がセレブな有閑マダァムだったならばきっとはまっていたに違いない世界だ。

何と言っても日本の色彩が美しい。
音曲が(場合によっては眠気を誘うほど)心地よい。
場内から掛けられる「○○屋!」の声が夏の夜の花火のようだ。

「毛抜」では、平助…いえ勘太郎の美しさ、團十郎の迫力に惹きつけられた。そしてこれはストーリーが面白い!台詞も聞き取りやすく笑える場面もふんだんで(團十郎演ずる粂寺弾正が男も女も美しければ何でもアリ!な好色ぶりを発揮するあたりやら「堅い顔してちゃらけたお方」「びびびび」なんていう台詞まである)、おおらかで明るい。

「口上」は、ひたすらに新勘三郎を盛り立てようとする人々の心が美しくて、それを受け止める勘三郎勘太郎七之助親子の姿が感謝に溢れていて思わず泣いてしまった。
実際にはそりの合わない人とかあるのかもしれないし古くからの家同士の確執もあるのかないのかそんな裏事情は知る由もないが、恐らくは18代のお人柄なのだろう、そういったものがたとえあったとしても包み込んで昇華されていくような熱い気持ちが舞台を満たしていた。

「籠釣瓶…」は玉三郎の花魁・八ツ橋と勘三郎の佐野次郎左衛門の表情がどれもこれも圧巻。
出会いの場面で艶然と微笑む八ツ橋。玉さま…じっくりと拝見するのは映画「外科室」以来だったが、なんというお人か。凄みのある色気は夜桜そのもの。
勘太郎の花魁姿も想像以上に美しく七之助のそれは可憐だったが、あくまでもまだ昼の花の匂いだ。

八ツ橋が縁切りを言い出す顔がまた凄い。能面の奥に感情を仕舞い込んで手酷く拒絶する。次郎左衛門の驚きと嘆き苦しみは直接こちらの胸に流れ込んでくるので、正直疲れてしまったほど。
筋書きが好きの嫌いのというのは野暮なのかもしれないが、決して好きな部類の話ではなかった。しかし素晴らしかった。

続く