「贋作・罪と罰」を観た

一週間以上経ってから感想を書くなんて、ただでさえ鶏頭(三歩で全てを忘れる…鶏に失敬?)なのに益々もって薄い内容になってしまうのだが、せっかく観られた舞台のことは簡単にでも記しておきたいのでメモ程度に。

この作品はドストエフスキーの「罪と罰」を下敷きにして、設定を日本の幕末に置き換えている。
原作を遥か昔に読んだはずだがあらすじしか覚えていないのは何故だ(鶏頭だからか)。
ロシア文学って何度も同じ頁を読んでしまうんだよな(鶏頭だからか)。

強欲な金貸しの老女を殺害した主人公が罪の意識に苛まれる、というプロットは同じだが主人公の性別が原作とは異なる。
神経質なロシアの貧しい大学生から、幕末の江戸開成所に学ぶ女塾生・三条英(さんじょうはなぶさ=松たか子)となるわけだ。

この松・英が素晴らしかった。
袴姿での所作は凛々しく隙が無く、声は通るし美しいし芝居は巧いし。
肌も綺麗で(かぶりつき一列目で穴の開くほど見つめてしまった)およそ欠点というものが見当たらない。
殺害のシーンは鬼気迫る寄り目になっていてまるで歌舞伎役者。
よッ、高麗屋!と叫びたくなった。中村屋ッ!←無茶苦茶笑えるサイトがあるのだが皆さんご存知?…って話がズレまくってるよ、鶏頭だよ…。

他の役者たちも巧いわ面白いわ見せるわ聞かせるわで、2時間強の舞台がとても早く感じられた。
しかも流石は野田作品、シンプルな造りに様々な趣向が凝らされていて板の上だけではなく周囲に配置された椅子に代わる代わる座る役者の動きも興味深い。
ある時は効果音を担当しある時は観客と一緒になって板の上のアドリブに笑い(それは主に野田さん。アナタ古田新太の芝居にウケすぎ、私も大笑いしたけども!)、精力的にダイナミックに動き回る役者たちに感服。

そして印象的なのは数々の椅子だ。
それらを組み合わせて「高利貸し屋」「居酒屋」「警察」「皇居」「牢獄」「下宿」「豪華な屋敷」「墓場」「バリケード」「川辺」など、全ての場面を瞬時に作り上げ常に変化させていく。

この芝居を観て色々と感じることは多かったが、カーテンコール後にしみじみと心に迫ってきたのは「この場にいられることの幸せ」であった。
嫁ダー直後だったし、おほほ。

とある観客の椅子、に過ぎない私の座席ではあったけれど。
「充実したひと時」という場面を形作る椅子のひとつで有り得た幸せに感謝。