傘がないとたいへん その2

5日も千葉は雨だった。
そぼ降る雨の中、安全マップ作成のため学校へ。
通学路全体が危険なので(どこもかしこも歩道が狭く車やバイクの通行量が多い)、みるみるマップが真っ赤…。

本日分の作業を終え昼ごろ学校を出ると、一足先に帰宅したはずのPTA仲間が立ち止まって誰かと話している。
彼女のお子さん?…にしてはまだ下校時刻ではないし。
近づいてみると一人の少年と深刻な話をしているようだった。

どうやらその少年Iくんは、学校を途中で抜け出してきたようで。
薄ら寒いのに半袖の体操服に傘一本だけもって「逃げて」きたと言っている。
なにがあったのか詳しいことはわからないのだが、友達と揉めたかなにかしたらしく「あいつら絶対追いかけてくるから逃げてる、あいつらバカにしやがって。あいつらにはもう二度と会いたくない」というようなことを興奮して早口に話し、家にも帰りたくないと。

「でもさ、何も言わないで出てきたんじゃ先生も心配してるんじゃない?」
「知らない」
「じゃ、おうちに連絡する?お母さんに来てもらう?」
「それは絶対やめて!怒られる」
「怒らないよ、ちゃんと話してみたら?」
「怒るに決まってる、話なんか聞かないし」
「そんなことないんじゃない、お母さんも心配すると思うよ」
「心配なんてしない、あんなやつ」

頑ななIくんは、自分でもこの先どうすればいいのか戸惑いつつも「あいつら」と「あんなやつ」に対する敵愾心だけで立っているように見えた。
後からやってきた私は迂闊に口を出せず、ただIくんの濡れそぼる傘を見守っていた。
しきりに彼は「これからもずっと逃げればいいんだ」と繰り返す。

逃げ出したいほど嫌なことがあったんだろうな。
寒いのにな。
どうしたらいいんだろうな。

心の中で考えながら何もできない。
話を聞くことはできる。
でも堂々巡りをしそう…と思っていたところに学校から先生が二人、報せを受けて駆けつけて来られた。
ベテランの女性教頭と若い保健の先生。

大体の経緯を聞き「とにかく学校に戻ろう」と教頭先生。
「ここは寒いでしょ、学校に戻ってもその子達に会わないですむ場所を確保してあげるから戻ろう?」と保健の先生。
それでもIくんは「ここがいい。学校は嫌。あいつらに会いたくない」の一点張り。
粘り強く柔らかく説得する保健のW先生。
お若いのに素晴らしいカウンセリング能力!

続く