傘がないとたいへん その3

結局IくんはW先生に伴われて学校に戻っていった。
私達はW先生に敬服しつつその場を去ったが(残念ながら教頭先生は決まりきったことしか仰ってなかったな…)、あの後どうなったんだろうなIくん。
彼の担任の先生がきちんと双方の話を聞いてあげて、いい方向に持っていってくれるといいんだが。

こういう問題は本当に他人事ではない。
Iくんは5年生だった。
ドラ(息子・仮名)だってあと数年したら「絶対に会いたくないあいつら」ができるかもしれないし、逆の立場になるかもしれない。
私もドラから「あんなやつ、わかってくれるはずがない」と思われるのかもしれない。

一晩寝ても悶々とした気分が消えず、またもや朝帰りした(今回は仕事だからやむなし)大将(夫・仮名)が起きるのを待って一連の出来事を話す。

「学校側のことはわからないけど、親としては二つに一つだよな。友達関係をちゃんと修復できるか。できないのなら転校させるか。根の深いイジメだったりするなら、いくら頑張ってもダメだから」

うううう。
転校ね。
それも一つの手なのかもしれないが、なんとなく「逃げ」だと考えてしまう私はあかんのかな。
昨日もIくんが「逃げる」と言うたびに「でもいつまでも逃げ回るわけにはいかないんじゃないだろうか…」と感じたのも事実。
その場では決して口にしなかったけど。

だけどそんな考え方が誰かを追い詰めることもあるんだよな。
逃げなきゃやってられないときもあるもんな。

大将はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、ポツリと付け足した。

「俺ならいっくらでも逃がしてやる」

そういえばこの人はそういう人だった。
私とは全然違う考え方が出来る人で、色々と欠点もあるけど(それはお互い様)、こういうことを言える人だから結婚したような気もする。

もしも実際に‘我が子’が登校拒否でもしたときに、彼がどんな対応をするのかはその場にならないとわからないが(私はアタフタするに違いない)、親が二人とも「逃げちゃダメだ」なんて言ったら辛くて仕方ないだろうから、ドラのためにもそのスタンスを守って欲しいと思う。

雨が降ってるのに傘がないとたいへんだもんね。
傘なんて差さずに真剣勝負しろ、なんて無責任に言えないよな。

傘を握り締めて逃げようとしていたIくん。
絡まった気持ちを逃がす場所がどこかに見つかることを、こそっと祈るよ。