「キル」を観た その2

ヒロスエは、舞台に登場するなり放たれたスターのオーラ(笑)にちょっと圧倒された。
顔が異様に小さくて肌が異様に白くて(異様って失礼な)、ほっそりとした体つきも生き生きとした表情もよく通る声も魅力的。
シルクという役柄の持つ「見目麗しさ」「頭の弱さ」「子を産んだ後の苦悩」といったものをきちんと表現していたと思う。
ただ、何かが足りない気がした。
ふり幅が小さいというかのりしろが少ないというか、背後に何を隠し持っているのかわからない不気味さに欠けるというか。
求めすぎかもしれないが、野田作品のような深みのある物語を演ずるからにはそんな部分が実は重要なんじゃないか…などとわかったようなことを書いてごめんねヒロスエ

今回、私が最も心惹かれたのは勝村政信さん。
色々なTVドラマは勿論、舞台での勝村さんも以前から見知っていたが、ここまで撃ち抜かれたのは初めてだ。
結髪という役を満喫している様子を含め惚れてしまった。
一幕目のおネエ言葉やクネクネした動きに代表されるコミカルさ、うってかわって二幕目の抑圧と葛藤と濡れ衣にまみれたシリアスさ。
どちらとも実に見事で勝村・結髪から目を離せなかったため、他の役者さんも良かったのに印象にあまり残っていない…すいませんピンポイントすぎる感想で。
芝居の最中もカーテンコールでも勝村さんとバッチリ目が合って、そりゃもうクラクラしましたですよ、なんて素敵なヨソジ男子!

いかんいかん、どうにも恋に落ちると突っ走って盲目になってしまう。
それが楽しいんだけどもっ☆

なんてことはおいといて、もう一度劇場後方からこの芝居を観られればと願ってやまない。
当面不可能だが。
妄想力が発達しているため、舞台を覆いつくす大きな布がはためくさまを俯瞰でみた気にはなっているが、やはり実際に見るのとは違う。
それに野田作品は一度では到底味わい尽くせないので(恐らく二度目でも三度目でも取りこぼしてしまうものが沢山あるだろうけど)、いつかまた再々再演されるようなことがあれば駆けつけたいものだ。

それにしても。
羊、羊水、西洋…羊のイメージが縦横無尽。
野田さんの頭の中には常に比喩としての交響曲が流れているんだろうと想像する。
バイオリンの流麗さ、チェロの慈愛、オーボエの深み、クラリネットの軽やかさ…個々の響きと全体のバランス…天才って素敵。

なぞと呟いて終わる。