パルコ劇場にて

三谷幸喜作・演出「グッドナイトスリイプタイト」を観た。
中井貴一戸田恵子による二人芝居は、コメディらしい要素をたっぷり持ちながらとても苦く切ない大人の話であった。(以下ネタばれあります)

ひと組のカップルが出会い、結婚し、すれ違い、別れにいたるまでのストーリーを、時系列をバラバラにして描く。
舞台になるのはベッドルームだけ、登場人物は二人だけ(舞台横で演奏する楽団の4人がふわっと劇中にも紛れ込むシーンがあるけど)、中井貴一の衣装に至ってはほとんどずっと同じパジャマ…であるのに、飽きるとか物足りないとかいったこととは対極にある作品。

夫婦の30年をテーマにした大河ドラマ…ともいえるけど、特別にドラマティックな出来事があるわけではない。
ちょっとわがままで風変わりな奥さんとちょっと頑固で一風常識人な旦那さんが、けんかしたりすねたり仲直りしたり、呆れたり驚いたり感心したり、浮気したりそれに気付いたり、疑ったり疑われたり。

つまりは普遍的な夫婦の関係性を、三谷幸喜ならではの軽妙なセリフでテンポよく見せてくれるので、俗な湿っぽさとは無縁。
なのに、終盤たまらなくなり。
身につまされるとはこういうことかと…いえ、離婚を考えているとかではないんですけどね。

夫婦に限らず、どんな関係性も永遠ということはないと思う。
形としては続いたとしても中身は変わる。
良い方にも悪い方にも変わる。
今年を代表する一文字は「変」だそうだが、んなこたぁ言われなくたって世の中は刻一刻と変わっている。
人の心も、変わりたくないと願っても変わってしまう。
つまりは諸行無常というやつであります。
その苦さ切なさが、ひしひしとせまってきて泣けてしまったのだと思う。

だからねぇ、あんまり突き詰めちゃいかんのだよ明智君。
誰が明智君なんだか自分が誰キャラなんだかわからんけども。

それにしてもあの夫妻の忘れっぽさには強く感情移入できた。
大事なことでも些細なことでもポンポン忘れる二人。
でも変なことを覚えていたり少しずつ正しい記憶が紛れていたり。
その辺のリアルさが、あとでまたぐっと効いてくる。
うまいなー、ミタニンさっすがだなー、やられたなー、と嬉しい敗北感(なんで敗北感?)を抱きつつ劇場を後にした。

2008年も良い舞台を色々観られてラッキーでした!
アリガタヤアリガタヤ!