母のこと(その16)

2月19日

告別式が終わりに近づき、近親者が棺の母に沢山の花を手向ける。
母の兄(埼玉在住の画家でもある伯父)は自分の絵はがきをそっと納めてくれた。
「おばあちゃん、お花のベッドに寝てるみたいだね」と小声でドラが言う。

平原さんの歌声と花々に包まれて眠る母を、いよいよ火葬場へ送らねばならない。
父がお位牌を、姉が遺影を、私が骨壺を抱いて出棺の時となった。
その日の福岡は肌寒く、細やかな雨が降っていた。

車で15分ほどの火葬場に着く。
遺族と親戚だけで最後のお別れをする。

この時になって初めてドラは、これから「おばあちゃん」の姿が目の前からなくなってしまうことにはっきりと気づいたようだった。
無理もない、人が亡くなるということも火葬をするということも9歳になったばかりの子供が理解するのは難しいことだろう。

お別れは父から順に一人ずつ母の顔を見て終わり…というはずだった。
ではよろしいですか…と言われても、なんだか私はとてもこれでは足りないと思ってしまい、すいませんもういちどお願いします…と火葬場の方に頼み「みんな一緒で」と声をかけて、その場にいた全員で母を囲んだ。
ドラに子守唄を歌ってくれた母が思い出されて仕方ない。
いっぱい歌ってもらったね…ドラと一緒にありがとうを言った。

体調を崩したままの甥っ子Uちゃんは、そのとき部屋の隅にうずくまって号泣していた。
高校生の男の子が人目もはばからず泣いてくれてるよ、お母さんの初めての孫のあのシャイなUちゃんがだよ。

哀しいのに温かくてやわらかい。
そんな安らいだ気持ちで母を見送ることができた。

1時間半ほど待合室でお茶を飲んだりお菓子を食べたり。
ドラはおまんじゅうやマシュマロを頬張って、「これ美味しいからママも食べなよ!」と勧めてくれる。
一通り食べると、今度は従兄弟から貰った漫画ドラえもんにかじりついていた(なんて不謹慎な…でも子供ってこんな生き物…)。

係の方が呼びに来て下さり、先ほどの部屋へ。
入口が開いたとき、先ほどまで元気いっぱいだったドラが怯えて後ずさりをした。
「こわくないんだよ。みんな同じなんだよ。」
それでも動揺は隠せず。
黙ってじいっと、骨になってしまった彼の祖母を見つめていた。

皆で少しずつ骨を拾って白磁の壺に入れていく。
ドラも落ち着いて骨を拾っていた。

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