母のこと その22

衣類はタンスにも押入れのケースにもまだぎっちり詰まっていたが、納まっているものは当面そのままにして、次はリビングの片付けをすることにした。
母の捨てられない病は台所にも当然及んでいて、姉と二人何度タメ息をついたことか…。
母の名誉のために付け加えておくと、整理は下手でも料理は上手な母だったし、物が異常に多かったけれど不潔ということではない。

でも父のことを思えばこのままで良いはずはない。
何よりも、どこに何があるのかハッキリしない状態を解消して、多すぎる食器や詰め込み過ぎの冷蔵庫を整理する必要があった。
そして食卓を食卓として機能させること。

ここでも胃痛が姉と私を襲う。
父は「なんでも捨てていいから。母さんもわかってるはずだから」と言ってくれたが、どうしても罪悪感がぬぐいきれず。

もう私、これから新しいものを一切買わないもんね…というくらいの決意めいた気持ちを胸にひたすら整理。
考えてみれば人生の折り返しは過ぎた(と思う)、今後は増やすのではなく減らす方向で生きていかねば…(とその時は思った。今も思ってるけど実践できるかはちょいと不安)。

片付けている間、一人になる時間があった。
姉が自宅の用事をしに戻り、父も葬儀後の諸事を部屋で黙々とこなしていた時かと思う。
夢中で動かしていた手をふと止めると、急に母のことが色々と思いだされて参った。
母の物に囲まれて、それは「遺品」になってしまった物たちで、でもまだ母の匂いが残っていて。
一度緩むと涙腺はとめどなくなり、悲しいのか淋しいのか切ないのかわからないけれど一時停止していた感情が動き出してしまった。

そんな状態の私に、まるで微笑みかけてくれるかのような物があることに気づいた。
未整理の母の衣類に埋もれていた母のストール。
ベージュに淡いピンクで花の模様が散らばっている。
柔らかい手触りのそれを手に取ると、母が笑いながら頷いているように感じた。
お母さん、わかった。これ、もらって帰るね。
独り言をつぶやいて涙を拭いた。

そんなこんなの三日間が過ぎ、2/23(月)に千葉に戻った。
学校から帰宅したドラは「ただいま、おかえり!久しぶりだね!」と笑う。
そしてこんな大人びたことを言うのだった。

「ママは少しずつ体のダイヤを戻さなきゃね」
鉄道ヲタのドラらしい、でもちょっと頼もしい言葉だった。

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