「歌わせたい男たち」を観た その3

(ここのネタばれは軽度だと思われます、Nさんへ私信。笑)

そして芝居は卒業式の寸前で終わる。

彼ら彼女らがどのような心境となりどのような選択をするのか。
それはある程度観る側の想像に委ねられる。

その2であらすじをくどくどと書いたが、勿論他にも沢山のエピソードが盛り込まれ思わぬ方向へ展開もし、息もつかせぬエピローグへと進むのだが…全てを再現することは不可能だ。
字面でいくら説明しても生の迫力には敵わないし、その場で感じたあれやこれやをストーリー説明だけで語れるとも思えないし。

というわけでそのあれやこれやを少しずつ。

このお芝居は重いテーマを扱いながら良質の喜劇でもある。
コメディとしてたっぷりと笑わせてくれる。
流石は達者な役者さんたちであり素晴らしい本の力であると感じ入る。

ミチルは戸田さん、拝島教師は近藤芳正さん、与田校長は大谷亮介さん、按部教諭は小山萌子さん、片桐教師は中上雅巳さんがそれぞれ演じられたが5人とも見事に人間の持つ可笑しみと切実さを表現しておられた。

それぞれに切実なのだ。その方向性がバラバラだから噛み合わないし、そこがまたコメディとしてよくできてもいる。
ただいかんせんテーマが「現実に今起きていること」なので…それを思うと笑いながら震えが抑えられなくなってきて、徐々に息苦しいような、早く解放してもらいたいような気持ちに襲われた。

いっそ泣かせて欲しい…と願いはじめた時に、サヨク・拝島がこんな台詞を吐くのだ。
「泣きたいのに、泣かせてくれよ、笑わせないでくれ」と。

そこは片桐が底の浅い思いやりを(本人はそうと意識もせずに)拝島に語る場面だ。
「アナタのためなんです」と言われれば言われるほど頑なになっていく拝島がひきつって笑いながら、絶望しながら高笑いするのだ。

ここの近藤さんも凄かったな…遠い目。

思うに、昨今の「泣かせる映画」「泣かせる本」のブームというヤツはお手軽なストレス解消なんではなかろうか。
泣けばとりあえず、切迫した緊張から放たれるから。
かくいう自分も涙腺は異常に弱くしょっちゅう泣いているんだけど。

この芝居を観て強く思ったのは「簡単に泣いて、簡単に考えることを放棄して、簡単にスッキリしてはいけない」ということだ。

だからずっと必死で涙をこらえた。
泣いたらあかん泣いたら。見えなくなるから。だ。

続く